2019年10月8日

ブログを引っ越します


というわけで,「数学で行こう」に引っ越します.タイトル同じかよとか言わない.

引っ越しはしますが,こちらも現状まま残しておきますので,こちらのタイトルを「数学で行こう(旧)」にします.

あちらでもマイペースで更新していきますので,よろしくお願いします.




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2019年9月11日

数理論理の Semantics と Syntax

今回は数理論理の話です.


「前原昭二『数理論理学序説』」に Semantics と Syntax の説明があるのだが,ピンと来ないし,場合によっては混乱する.

同書には,
Semantics:命題や推論の真偽や内容をもとにして研究する立場
Syntax:命題や推論の真偽や内容には触れずに,その形式上の構造にのみ着目して研究する立場
とある.

私は,この説明ではピンときていなかった.何度読んでもよく分からなかった.

上の文言に続いて,双対の原理を例として Semantics と Syntax の説明をしているのだが,わからなさ Max だった.Semantics と Syntax の違いはおろか双対の原理の説明もよくわからないダブルパンチだった.

そして,命題論理の章の最初に,
命題論理なるものを,semantics の立場において考察する.
とあり,その後に,
命題論理では,命題の内容的意味には立ち入らずに,その真偽だけを問題にする
と書いている.

私はこの部分を見て「これじゃ semantics と syntax が混ざってんじゃないの」と混乱した.

これって,ダブルパンチじゃなくてトリプルパンチじゃね?

その後,よく分からないままほったらかしにしていたのだが,そのままにしておくのはダメだろうということで,先日,手元にある数理論理や基礎論の教科書にあたってみた.

そうすると「福山克『数理論理学』」に
Semantics:形式的体系の記号に特定の意味ないしは解釈を与える方法でその体系を研究する立場
Syntax:形式的体系の記号を単なる図形として取り扱う方法でその体系を研究する立場
と書いてあって,やっとわかったような気になれた.

4-5年前に購入した前原本でモヤモヤしてたことが,20年以上積読の福山本を見たら,あっさり晴れたということです.

モヤモヤしてるなら,さっさと調べとけば良かったのですが,そのへんはまあ,ご愛嬌ということで.

---

人によれば,前原本の説明の方が分かりやすいかもしれないし,そもそも「両本ともそんな説明ではわからんぞ」というのもあるかもしれない.

私の場合は,前原本の説明で分からなかったことが,数年のうちに無意識に考えが熟成されて,もう少しでわかるというところに到達したところで,福山本の説明を見てピンときたのかもしれない.

このあたりの「わかる」の瞬間はその人のおかれている状況によって異なると思う.







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2019年8月29日

ペアノの公理と無限集合

集合論の話しは久しぶりのような気がする.
今回は,ペアノの公理を満たす集合は無限集合であることを証明します.


まずはペアノの公理から.

定義.$N$ を集合とする.$N$ が次の条件を満たすとき,$N$ をペアノの公理を満たす集合という.
  1. $1\in N$
  2. 単射 $\varphi\colon N \to N$ が存在する.
  3. $1\not\in \varphi[N]$.
  4. $N$ の部分集合 $A$ が次の条件を満たすとき,$N=A$ である,
    • $a\in A$.
    • $n\in A \Rightarrow \varphi(n)\in A$

補足.ペアノの公理を満たす集合 $N$ を定義したが,そのような $N$ が存在するとはいってない.


⬆ 例えていうなら,80点以上で合格という条件を決めても,80点以上の人がいるかどうかは別問題みたいなもの.なので,次の公理を追加するっと.


公理.ペアノの公理を満たす集合が存在する.


⬆ 無理やり感が強いが,まあこれで安心して次に進むことができる.

今回のテーマのひとつが無限集合なので,それを定義してみる.


定義(無限集合).$A$ を集合とする.$A$ のある真部分集合 $A'$ に対して,$A$ から $A'$ への全単射が存在するとき,$A$ を無限集合という.


要素が無限個あるのが無限集合ではないのかって?
君は何を言ってるんだ.無限を無限で定義して定義したことになるのかね?(煽り


補足.無限集合を定義したが,存在するとはいってない.


⬆ まあそういうことです.定義しても,その定義を満たすものが存在するかどうかは別の話し.

んで,ペアノの公理を満たす集合が存在するなら,無限集合が存在するよというのが次の命題.


命題.集合 $\mathbb{N}$ がペアノの公理を満たしているとする.このとき,$\mathbb{N}$ は無限集合である.

証明.ペアノの公理の 3. より,$\varphi[\mathbb{N}]$ は $\mathbb{N}$ の真部分集合である;$\varphi[\mathbb{N}] \subsetneq \mathbb{N}$ .

写像 $\varphi '\colon \mathbb{N}\to \varphi[\mathbb{N}]$ を $\varphi '(n) = \varphi (n)$ と定義すれば,$\varphi '$ は全単射である.

無限集合の定義より,$\mathbb{N}$ は無限集合である.□


ということで,ペアノの公理を満たす集合は無限集合であること,すなわち,無限集合が存在することがいえましたパチパチパチ


実は,ペアノの公理を満たす集合が存在することと,無限集合が存在することとは同値です.本当は,無限集合が存在するというのを公理に据えて,ペアノの公理を満たす集合が存在することを証明しようとしたのだが,証明を打ち込むのが面倒なので,ペアノの公理を満たす集合の存在を出発点にしたのでしたわはは.





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2019年7月18日

コメントの返信には時間がかかるのだ

どうでもいい話しです.

このブログにコメントをもらえるのはありがたいのですが,滅多に来ないコメントがあると,中の人は不意打ち食らったようになるので,返事には数日かかります.

無視しているわけではありません.

しかし,三日目あたりで忘れてしまうかもしれません.

ということで,当日や翌日あたりに返信があった場合は祝杯挙げて下さい.



コ メ ン ト 後 は 気 長 に 待 て




まあそういうことです.





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2019年7月9日

線型空間と基本命題

ちょっと長いです.

定義(線型空間).$V$ を空ではない集合 ,$K$ を体とする.ここで,
  • $V$ に加法 $x+y$ が定義されていて,以下の4つの条件を満たしているとする;
    • (結合律)任意の $x,y,z\in V$ に対して, $(x+y)+z=x+(y+z)$.
    • (単位元)$V$ にある要素 $0$ がただひとつ存在して,任意の $x\in V$ に対して,$x+0=x$.
    • (逆元)任意の $x\in V$ に対して,ある要素 $x'\in V$ がただひとつ存在して,$x+x'=0$.
    • (交換律)任意の $x,y\in V$ に対して, $x+y=y+x$.
  • $V$ にスカラー倍が定義されていて,次の 1. -- 4. を満たしているとする; 
    1. 任意の $x,y\in V$,$a\in K$ に対して,$a(x+y)=ax+ay$.
    2. 任意の $x\in V$,$a,b\in K$ に対して,$(ab)x=a(bx)$.
    3. 任意の $x\in V$,$a,b\in K$ に対して,$(a+b)x=ax+bx$.
    4. 任意の $x\in V$ に対して,$1x=x$.
    このとき,$V$ を $K$ 上の線型空間という.


    命題.$X$ を集合,$W$ を体 $K$ 上の線型空間とする.$X$ から $W$ へのすべての写像を要素とする集合を $F$ とする.$f,g\in F$,$a\in K$ に関して次のような演算を定義する;
    \begin{align*}
    f+g & =\{(x,\,f(x)+g(x))\mid x\in X\},\\
    af & =\{(x,\,a[f(x)])\mid x\in X\}.
    \end{align*}このとき,$F$ は $K$ 上の線型空間である.

    補足.$F$ が線型空間であるためには,$f+g$ も $af$ も,$F$ の要素であることが必要である(上ではそのように定義している).

    補足.$F$ が線型空間であるためには,定めた演算が【定義】のすべての条件を満たすことが必要である.

    ――

    以下,各条件ごとに証明します.

    証明(結合律).任意の $f,g,h\in F$,$x\in X$ に対して,
    \begin{align*}
    (f+g)+h & =\{(x,\,[f(x)+g(x)]+h(x))\mid x\in X\}\\
     & =\{(x,\,f(x)+[g(x)+h(x)])\mid x\in X\}\\
     & =f+(g+h)\end{align*}である.

    補足.$f(x),\,g(x),\,h(x)$ は $W$ の要素である.$W$ は線型空間であったから,加法に関して結合律が成立する.

    ――

    証明(単位元).$W$ の加法の単位元を $0_w$ とする.このとき,ある写像 $g_0\in F$ が存在して,$g_0 (x)=0_w$ となる;$g_0 =\{(x,\,0_w)\mid x\in X\}$.$g_0$ が $F$ の単位元であることを確認する;任意の $f\in F$ に対して,
    \begin{align*}
    f+g_0 & =\{(x,\,f(x)+g_0 (x))\mid x\in X\}\\ & =\{(x,\,f(x)+0_w)\mid x\in X\}\\
     & =\{(x,\,f(x))\mid x\in X\}\\
     & =f
    \end{align*}である.この $F$ の単位元 $g_0$ を $0_F$ とあらわすことにする.

    ――

    証明(逆元).任意の $f\in F$ に対して,$f+f'=0_F$ となるような $f'\in F$ が存在することを示す;
    \begin{align*}
    f+f' & =\{(x,\,f(x)+f'(x))\mid x\in X\}
    \end{align*}である.$f(x)$ に対して,$f(x)+(-f(x))=0_w$ を満たす $-f(x)$ が存在する.そこで,$f'(x)=-f(x)$ とすると,\begin{align*}
    f+f' & =\{(x,\,f(x)+[-f(x)])\mid x\in X\}\\
     & = \{(x,\,0_w)\mid x\in X\}\\
     & = 0_F
    \end{align*}である.次に,任意の $f\in F$ に対して,$f+f'=0_F$ となるような $f'\in F$ はただひとつであることを示す;$f+f'=0_F$,$f+f''=0_F$ であるとする($f',\,f''\in F$).このとき,
    \begin{align*}
    f'' & =(f'+f)+f''\\
     & =f'+(f+f'')\\
     & =f'
    \end{align*}となる.

    ――

    証明(交換律).任意の $f,\,g\in F$ に対して,
    \begin{align*}
    f+g & =\{(x,\,f(x)+g(x))\mid x\in X\}\\
     & =\{(x,\,g(x)+f(x))\mid x\in X\}\\
     & = g+f
    \end{align*}である.

    補足.$f(x),\,g(x)$ はともに $W$ の要素である.$W$ は線型空間であったから,加法に関して交換律が成り立つ.したがって,\[f(x)+g(x) = g(x)+f(x)\]である.

    ――

    証明( $a(f+g)=af+ag$ ).任意の $f,\,g\in V$,$a\in K$ に対して,
    \begin{align*}
    a(f+g) & =\{(x,\,a[f(x)+g(x)])\mid x\in X\}\\
     & =\{(x,\,a[f(x)]+a[g(x)])\mid x\in X\}\\
     & = af+ag
    \end{align*}である.

    ――

    証明( $(ab)f=a(bf)$ ).任意の $f,\,g\in V$,$a,\,b\in K$ に対して,
    \begin{align*}
    (ab)f & =\{(x,\,(ab)[f(x)])\mid x\in X\}\\
     & =\{(x,\,a(b[f(x)]))\mid x\in X\}\\
     & = a(bf)
    \end{align*}である.

    ――

    証明( $(a+b)f=af+bf$ ).任意の $f,\,g\in V$,$a,\,b\in K$ に対して,
    \begin{align*}
    (a+b)f & =\{(x,\,(a+b)[f(x)])\mid x\in X\}\\
     & =\{(x,\,a[f(x)]+b[f(x)])\mid x\in X\}\\
     & = af+bf
    \end{align*}である.

    ――

    証明( $1f=f$ ).任意の $f\in F$ に対して,
    \begin{align*}
    1f & = \{(x,\,1[f(x)])\mid x\in X\} \\
    & = \{(x,\,f(x))\mid x\in X\}\\
    & = f
    \end{align*}である.したがって,$1f=f$.

    補足.$1,\,f(x)$ はともに $W$ の要素である.$W$ は線型空間であったから,$1[f(x)]=f(x)$ である.


    ――――――――――


    写像と写像の和も,写像のスカラー倍も,写像で直接書けやゴルァ!というわけで,今回のような定義と証明になったのでした.

    なんていうか,$f+g$ を $(f+g)(x)=f(x)+g(x)$ で定義するといわれても,私にはピンと来ないのですな.頭の中でその二つが結びつかないのです.$f+g$ を定義するなら,\[f+g=\text{ホニャララ}\] と書いて下さいよという感じで.

    補足説明が足りない(抜けている)のだが,自分で納得できる説明が完成するのを待っていたら夏が終わってしまうような気がしたので,公開することにしました.抜けている補足は後日追加します(気分次第).







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